外資系は社員ファースト キャリアも働き方も自分次第

外資系は社員ファースト キャリアも働き方も自分次第

管理職比率の低さをはじめ、女性の活躍が遅れているといわれる日本。硬直的な日本型雇用慣行が背景にあるとされるが、では外資系企業ではどうなっているのか。勤務地もキャリアプランも自分で決め、多様なキャリアを積む姿がそこにはあった。
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アクセンチュアの植野蘭子マネジング・ディレクター(右)
■家庭事情に合わせ勤務地変更 米JPモルガンの高木麻子さん
女性が働き続ける上で最大のネックの一つとされるのが転勤。米JPモルガンのコンプライアンス部門で働く高木麻子さん(36)の勤務地はサンフランシスコだ。しかしそれは異動の辞令を受けたからではない。
もとは同社の日本法人で働いていた高木さん。転機は2011年、ニューヨークで働く大学時代の同級生と結婚すると決めた時だった。転職が一般的な外資系企業では、空きポストがあれば誰でも応募することができる。「それは社外からでも社内からでも同じ。選考にパスすれば行きたい部署に移ることができる」(高木さん)。めでたく先方からOKをもらい、ニューヨークに異動した。
しかし15年に夫がサンフランシスコに転職したいと言ってきた時は違った。現地に自分の移れそうなポストは見つからない。「サンフランシスコに行きたいんだけど」。ダメでもともとの思いで上司に相談すると、答えは「今のチームに残って働いていい。所属はニューヨーク、勤務地はサンフランシスコで」。
会議は電話会議が基本で、客先に行く必要のある仕事でなければ勤務地はどこでもいいというのが上司の判断だった。時差に合わせ、朝5時に子供を残して出社する羽目にはなったが「私が特別なわけでは無いと思う。他にも、オフィスには、家庭の事情で夏だけロンドン時間で働きに来るロンドンの社員もいる」(高木さん)。
「外資系企業は社員を制度に合わせるのではなく、社員に合わせて仕組みを変える」と話すのは、自身も外資系企業でのキャリアが長く、企業統治が専門の北川哲雄・青山学院大学大学院教授だ。人材流動性が高い社会において「優秀な人材の流出を防げると同時に、働きやすい環境でなければ良い人材も採れない」からだという。
「能力を最大限発揮できるよう社員の事情に極力個別対応するが、給与など雇用条件も個別交渉なので融通を利かせやすいのかもしれない」(JPモルガン)との声もある。
英系ロバートウォルターズ・ジャパンの16年の調査では、女性管理職比率が20%超の国内の外資系企業は29.8%に対し、日本企業は11.9%だ。日本企業の課題は人事評価の方法自体にも見え隠れする。
「日本企業は社員を年次ごとに相対評価で管理する。これが女性の働きにくさの最大要因」とリクルートワークス研究所の石原直子主任研究員。「何年目の社員なら何をやっているはず、という“普通”を歩む社員の中から出世する人をふるいにかける」(同)ため、出産育児で「普通の社員」と同様の働き方ができなくなった女性はキャリアアップの道から外れがちだ。会社に在籍し続けていてもそうなのに、一度離職してしまった人はなおさらだ。

■ブランクあってもスキルで復職 アクセンチュアの植野蘭子さん
アクセンチュア戦略コンサルティング本部の植野蘭子マネジング・ディレクター(39)は夫の海外転勤に伴って国内メーカーを退職し、専業主婦になった。帰国後「もう一度働きたい」と就職活動を開始したが、日本企業は門前払いだった。一方で外資数社から内定を得て、アクセンチュアで働き始めた。
女性の復職を支援するワリス(東京・港)は「日本企業は年数に応じてクラスや賃金が決まることが多いため、ブランクのある人の再就職は難しい。外資は個人の仕事の範囲が明確で、満たすスキルがあれば年齢など他の要素は関係なく採用される」と植野さんの再就職を分析する。
今の会社に入社後、上司からの食事の誘いを部下が断っているのを見て植野さんは驚いたという。「上の言うことを断らないとか担当外の社内イベントの準備とか、フルコミットして総合的に評価されるのが日本企業」。その後アクセンチュアで低い評価がついたこともあったが「どれも明確に自分の仕事に対するもので納得できた。仕事だけに焦点をしぼれた」。
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スキルと意志があれば各人各様の道を歩める。こんな外資のメリットを享受できるのは一部の優秀な人だけと思われそうだ。「日本企業のように会社がではなく、自分がキャリアを決めるというのが外資の本質的な特徴。だからこそ多様なキャリアが選べるのであって、海外ではエリートもそうでない人もこの点に違いはない」と石原氏は解説する。
確かに外資は、概して日本企業に比べ雇用が不安定だ。新卒採用の社員を階層別教育で育成する日本企業との対比で、即戦力を重視し「使い捨て」のイメージで語られることも多かった。しかしこの状況も変わりつつある。
「産業構造の急速な変化に対応し欧米企業が社員のスキル習得など人材育成に注力し始めている。かたや日本では研究開発への投資は増やすが人材への投資は増えていない」とSAPジャパン(東京・千代田)のアキレス美知子バイスプレジデント人事戦略担当は話す。「もはや人材育成においては日本よりも他国の方が熱心だ」という。
かつて大きな優位性を持った日本型雇用システムのほころびは、様々な面から覆い隠せなくなってきている。
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■日本企業に出世の道は ~取材を終えて~
育休や短時間労働、夫の転勤に伴う帯同休暇。日本企業でも女性が働き続けるための制度は充実してきた。むしろ制度面では外資より充実の感がある。だが制度導入の主眼は、あくまでも働き続けられることでキャリアアップは二の次ではないだろうか。
比べて外資は収益アップがかなうなら、組織より個人を優先し柔軟に対応。取材した女性は「日本企業では出世はなかったと思う」と口をそろえた。
もちろん外資も甘くはない。終身雇用の考えはなく、今回、取材の途中だった女性は突如として解雇になった。だが、いくつもの改革を実施してきたその実績は他社でもいきるに違いない。先の見えない女性社員を量産し続けるだけでよいのか。日本企業の力量が試される。